2008-04-10 [Thu]
PR
ルルーシュ・ランペルージがその知らせを聞いたのは放課後、人払いが済んだクラブハウスでだった。
常ならば朗らかに自分を呼ぶミレイが、硬質な声で「殿下」と呼んだ時点で語られる内容が己の出自に関わる事であるのは察する事が出来たが、続いた言葉はまさかと思わせるもので、鷹揚に構えていた彼が椅子を蹴立てて立ち上がったのも無理は無い。
「………何といった、ミレイ」
思わず過去の口調に戻ったルルーシュに、此方も過去の如く膝を付き頭を垂れながら、ミレイは再びその言葉を口にした。
「明後日、本国よりルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下がユーフェミア殿下の補佐官としてご来臨されるとの事です」
「それは確かなんだな」
「はい。本家よりルルーシュ殿下の歓迎と傍仕えの手配を命じられました」
言葉を聴きながら乱暴に体を椅子に投げ出す。
ルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。何てことだと息をつけば、気遣う視線が見上げてきた。だがそれに構う間はない。明後日とはまた急な話だ、否、急すぎる。
何より。
「宰相の補佐官として地盤を固めたあれを、シュナイゼルが手元から離すとは思わなかったな…。やはり枢木スザクの騎士就任が効いたか」
「そのようです。第二、第七、第八皇妃とその親族が宰相閣下に詰め寄った模様で」
「第三皇妃は」
「ユーフェミア殿下が先走っただけで、自分は騎士就任は認めていないと広言しているとの事です。間違いがあった所で庇護をする気もない、と」
「権力からなる甘い水を貪るのに必死な皇妃殿下に相応しいコメントだな、反吐すら出ん」
侮蔑を隠しもしない声が生徒会室を舐めた。
だが、そんな事に拘る時間は残されていなかった。
来訪するルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがもしもメディアに姿を見せれば、今ここにいるルルーシュとの関わりを探るものが必ず出てくるだろう。それはまずい。うっかりなどというレベルではない身分露呈の危機だ。せめて一月、最低でも一週間あればぎりぎりであってもどうにか手を回せたものを、たった一日の猶予で出来る事など限られているではないか。
だからといって手を拱いている暇もない。
「……潮時か」
「っ、」
「来訪の意図を考えれば、あれが外に顔を見せる事はないだろうが、最悪副総督交代のシナリオまで組まれていると考えるべきだろう。ユーフェミアがボロを出さない事を祈るばかりだが、どうにも不安が残るからな。それにあれの顔が完全に伏せられる事も無いだろう…裏では既に出回っていると考えていい。そうなっては……ナナリーに何があるか解らん」
「…殿下」
「政庁にも既に伝達されているか………もしあれの姿をあいつが見たら…少々煩くなるな。まあ今のあいつは簡単に動けないだろうから後回しでもどうとでもなる」
「枢木スザクに関しては私にお任せを。如何様にでもしてみせます」
「くれぐれも気を抜くなよ、あいつの鼻はコヨーテ並、しつこさはスッポンとタメを張る」
衣擦れだけを供にルルーシュが立ち上がった。一歩遅れてミレイも立ち上がる。
そのまま生徒会室の入り口に向かう背から声だけが放り出された。
「ルーベンに会いたい」
「伝えます」
深く頭を垂れ、ひっそりと唇を噛み締めるミレイだけを残し、扉は閉じられた。
2008-04-09 [Wed]
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア
神聖ブリタニア帝国 第十一皇子
皇位継承権第十位
皇暦2000年12月5日生まれ 17歳 男性
故第五皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの長子
徹底した実力主義者として知られている
2010年に起こった第七皇妃暗殺未遂時、砂糖に混入されていた神経毒を服毒
昏睡状態に陥る
その後昏睡からさめるものの、後遺症として右半身麻痺と視力低下が残っている
同年に起こったアリエス宮襲撃により、マリアンヌ皇妃が死亡
第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニア殿下が後見に立つ
2013年 シュナイゼル・エル・ブリタニア殿下の補佐官として活動を開始
2015年 騎士任命、紫翼騎士団発足
同年 エリア21平定
2016年 エリア23平定
2017年 エリア11派遣
「そんな……そんなはずない…! だって、ルルーシュは…!!」
2008-04-08 [Tue]
執務室へたどり着くと、傍付きのメイドにお茶を頼んで、ユーフェミアは柔らかな物腰でソファーに腰掛けた。そうして傍に立つスザクにも座るよう目で示し、小さく息をつく。
「お姉様も悪気がある訳ではないの。私の至らなさの為に嫌な思いをさせてごめんなさい」
「大丈夫。きちんと解ってるよ。それに、ユフィだって頑張ってるんだから、そんなに卑下する事ないよ」
ありきたりの言葉しかかけられないスザクにも、ユーフェミアは嬉しそうに微笑む。苦しいのはスザクだけではないのだ。寧ろスザクを選んだ彼女こそが苦しい立場に追いやられている。ましてや今回の補佐官派遣はどれほどの烙印を彼女に刻むのか。予想も出来ない未来にスザクの腹の底が重く燻る。
しかし、そんなスザクに気づいたのかユーフェミアは思ったよりも明るい声で笑った。
「大丈夫です、私は大丈夫。だからそんなに重く考えないで」
「うん…」
「それに、お姉様や皆はああいうけれど、私は補佐官の事は余り心配していないのよ。スザクの事をやめさせるなんて、きっと有り得ないわ」
「随分とはっきり断言するんだね?」
先程のコーネリアの反応、特派でのセシルやロイドの様子から比べ、ユーフェミアは奇異に取れる程に明るすぎた。彼女にとって補佐官派遣は陰鬱なものではないようだ。寧ろ歓迎するような微笑。
首を傾げるスザクに、メイドが配したティーカップを手に微笑んで、まるで取って置きの秘密を告げる様に囁く。
「明後日いらっしゃる補佐官を、私もお姉様も良く知っています。彼はナンバーズを否定しない人だし、不条理な事で人を追い詰めるような酷い事もしないわ。ただ、シュナイゼル義兄上の派閥に属していると目されているし、派遣のきっかけがきっかけだったものだからお姉様もちょっと気を揉んでおられるだけなのよ」
くすくすと笑うユーフェミアは相変わらず愛らしく美しい。そしてその美しさに見合うだけの爆弾を、彼女は落とした。
「それにね、これはきっと貴方にも朗報だと思うのだけれど。補佐官の騎士は貴方と同じナンバーズだそうなの」
「え、……ええぇっ!!?」
思わず声を上げ立ち上がってまで驚愕を示したスザクを誰も責める事は出来まい。何せ現在進行形で非難の真っ只中にある身だ、そんな彼らと同じ立場にいる者が本国からやってくるという。これで驚かずして何に驚くというのか。
しかし、ふと気づく。騎士を持つという事は―――。
「あの、ユフィ。騎士を持っているって事は、補佐官はもしかして、皇族なのかい?」
「ええそうよ。あら、言ってなかったかしら」
「うん」
「そう、そうね。補佐官がいらっしゃるって事しか告げていなかったわね。ごめんなさい。補佐官は皇族です。私より一つ年上のお義兄様よ」
言いながら、ローテーブルに放置されたままの書類が差し出された。幾分か分厚いのは、彼がこれまで行った政策やエリア平定の功績、彼の擁する親衛隊などの情報も纏められているからだろう。
だがそんなことは、表書きをめくった途端全て吹き飛んだ。
がちりと音を立てて固まったスザクに、紅茶と共に供された焼き菓子を口に運んでいたユーフェミアが首を傾げる。
「…どうかしましたか?」
「………」
「スザク?」
いつもなら清冽な声が返ってくる筈の問いかけも、今は無く。訝しげな視線を向けてもやはり彼の視線は書類の二枚目から動く事はない。
さて何が記されていたかしら、と先に目を通した者としてその表記内容を思い出す。二枚目という事は補佐官の身上書の筈。記されているのは名前や家族構成などと、あと―――。
「写真?」
「っ!」
びくんと肩を跳ね上がらせ、スザクが顔を上げた。その表情は凄まじく混乱に満ち満ちて、だが一番大きく占めているのは、焦燥、だろうか?
「あの、あの殿下、この方は」
何が言いたいのか、それきり口を開閉するに留まり、再び視線は手元へ。
よくわからないが、取り敢えず問いに素直に答えるべく、ユーフェミアは口を開いた。
「美しい方でしょう? その方は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。今は無き故第五皇妃マリアンヌ様の長子で、第十一皇子。その髪の色とお父様から下賜された象徴の薔薇から、皆には『黒の皇子』と呼ばれているわ」
ユーフェミアの声がスザクの脳を通過していく。
そこに写っていたのは、紛れも無く彼の幼馴染だった。
2008-04-07 [Mon]
「副総督、補佐……ですか?」
第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアの騎士となり、周囲の視線の厳しさに負けないように、そして皇女の期待に答えるべくより一層訓練に励むスザクの耳に届いたのは、何故か歪な響きを持つ単語だった。
それを告げたセシルも幾分か複雑な面持ちで、トレイに乗せたコーヒーを差し出している。
「ええ……どうも、シュナイゼル宰相閣下がコーネリア殿下に直々に申し込んだらしいの。ほら、ユーフェミア殿下は本国では学生でいらしたから、戦場を駆けるコーネリア殿下を補佐して政治的なサポートをするには経験が足りないだろうって」
「……そう、なんですか……」
「な~んか今更って感じ~? ま、仕方ないんだろうけどぉ?」
セシルの説明に相槌を打ちながらも、どうにも釈然としない気持ちを覚えるスザクに、笑いを含んだロイドの声が届いた。セシルとスザク、二人に見つめられてもコンピュータ画面から顔を上げず、ロイドは続ける。
「元々ユーフェミア殿下がお飾りの副総督だってのは周知の事実、暗黙の了解って奴でしょ~? 本当に心配してるなら最初から補佐官付きで寄越すよ、シュナイゼル殿下はぁ。なぁのにぃ、こぉんな風にいきなりの派遣って事はぁ、やっぱ純血派に派手にせっつかれたんだろぉねぇ」
「え、」
「ロイドさん!」
咄嗟に出たのだろうセシルの右手を頭を低くする事で避け、珍しく不満げな視線で有能すぎる部下を見上げた特派主任は、でもはっきり言っておいた方が少佐だって安心でしょと口角を上げた。
「つーまりねぇ、枢木少佐。君のユーフェミア殿下の騎士就任は、当然の事ながら本国では不評と不平と不満の嵐って事! 博愛に生きる『慈愛の姫』には似つかわしいエピソードかもしれないけど、元々リ家のお二方の母君は公爵家の末姫で『由緒正しいブリタニア人』だ。娘の騎士がナンバーズだなんて有り得ない、認めたくない事だろぉしね~」
「……」
「だからぁ、多分今回来る補佐官はユーフェミア殿下の補佐の振りして、実の所は監査官でもある訳ぇ! 君、今以上に気が抜けなくなるねぇ~? うっかりすると、その大事な大事な騎士章、取り上げられちゃうかもしれないよぉ?」
「ロ・イ・ド・さ・ん!!!」
ごっ、と肉がぶつかるには少々重い音を残して、今度こそロイドの体が机の下に落ちた。
特派での軍務を終え、ユーフェミアの元へ向かおうとしたスザクを呼び止めたのは、コーネリアの専任騎士・ギルフォードだった。苦い顔を隠そうともせずに、総督の執務室まで同行するよう告げるとさっさと歩き出してしまう。
いち早く主の下へ参じたい気持ちもあるが、上官でありこのエリアの最高責任者であるコーネリアの招聘に応じない訳には行かない。何より彼はもう僅かな粗を見せることも許されない立場となってしまったのだ。スザクに出来る事は、表情を改めてきびきびとギルフォードについていく事だけだった。
手ずからに執務室の扉を開かれ、先に入るように促される。入室し敬礼したスザクを、コーネリアの鋭い眼光が貫いた。彼女が座する執務机の隣には、妹であり副総督、そしてスザクの新しい主でもあるユーフェミアが、愁いを帯びた笑みで彼を見つめていた。
「副総督補佐の話は聞いたか」
拝謁の口上を述べようとしたスザクを制して告げられた言葉に、やはりそれで呼ばれたかと内心重たくなりながら頷き返す。
「はい、先ほど。噂話程度のものではありますが」
「……一昨日、シュナイゼル・エル・ブリタニア宰相閣下より通達があった。騎士を得て本格的に副総督として活動をせねばならないユーフェミアに補佐をつける、とな。テロリストの動きが活発になっている今、『僅かな隙も見せるべきではない』との事だ」
それが意味するところは当然解るな。
苦々しく表情を歪め、スザクを睨むコーネリア。妹を溺愛している彼女にとって、騎士を得るという華々しい姿である筈のそれが真逆に妹の経歴に泥をぬっている事実は耐え難いものだろう。スザクの騎士就任は奴隷に等しく扱われる名誉ブリタニア人達にとっては誇らしい第一歩である事だが、実際にはロイドが指摘するとおり、純血を重んじるブリタニア人にとっては絶対に有り得ない、あるいは有り得てはいけない事なのだから。
更にそれによって、『僅かな隙』が出来るだろうという宰相の指摘は、誇り高いコーネリアにとって屈辱以外の何にもなりはしない。悔しい事に指摘は現実のものになりつつあるからだ。元々コーネリア自身がナンバーズを区別する人物であったのも災いした。スザクを解任させるようコーネリアに、あるいはユーフェミアに直接働きかける者も出ている始末。コーネリアに来た者にはどうとでも言い訳が出来る。だがユーフェミアへと向かった者たちは、頑なにスザクを擁護する姿に、ユーフェミアへの侮蔑を隠そうともしなくなった。それを目の端に捕らえるたび(彼らはコーネリアの前ではそれを綺麗に隠してしまうのだ)、どうしようもない苛立ちがコーネリアの胸を痛めつける。
だからといってその苛立ちを妹にぶつける訳にも行かず、結果怒りは妹の目に留まるような所に現れた(それが完全な八つ当たりである事は言わずもがなだ)枢木スザクへと向けられることになる。
重くなった沈黙に耐えかねたらしいユーフェミアが一歩スザクの方へ進み出た。それすらも気に食わないと背後で赤紫の瞳が細められるが、あえてそれは無視しておく。スザクにとって重要なのはコーネリアよりもユーフェミアの意思なのだから。
「急な話で申し訳ないのですが、明後日、補佐官がエリア11入りされます。スザクは私と共にお出迎えして欲しいのです」
「イエス、ユア・ハイネス」
「お願いしますね。では総督、私は執務に戻ります。我が騎士とも補佐官をお迎えする際の打ち合わせをしなければなりませんし」
「ああ、しっかりな。いいか枢木、決して付け入られるような隙だけは見せるな。これ以上ユーフェミア、副総督を貶めるような事があれば、枢木、補佐官より先に私が貴様を切り捨ててやるぞ」
「では! 失礼いたします!」
ギルフォードの手ずから開かれた扉に向かおうとした背に飛ばされた激を遮る様に、ユーフェミアは珍しく声を荒げて暇を告げた。苦しげな顔で退室した彼女を追うべく、しかし姉姫の気持ちはしっかりと胸に抱いているのだと告げるように目礼をし、スザクもまた総督の前から辞した。
静かに扉は閉じられた。
専任騎士の労わりを宿した視線だけが、憔悴したコーネリアを包んでいる。
2008-04-07 [Mon]
それは運命だった、と少年は呟く。
それが道筋だった、と少年は嘯く。
赤い鳥居の前、黒髪も美しい美貌の少年と、車椅子に乗った飴色の髪の少女、二人の小指と鳶色の髪の少年の小指が結ばれた。
必ずだぞ。
ああ、必ず。
必ずです。
幼い少年と少女の声が誓い合う。
日本の名を冠した極東の島国が、神聖ブリタニア帝国の支配下に堕ちて数日の後、とある夏の日の事だった。
HN:
イタクラ
性別:
非公開
自己紹介:
ルル至上、ルル受。
お陰でそれ以外に対して厳しいことが多いですが、基本的に皆大好きです。スザルル萌ですが、黒騎士ロイドも好物だったりします。
捏造・パラレルネタ、エロよりもグロとか暴言が多いと思われますのでご注意を。
お陰でそれ以外に対して厳しいことが多いですが、基本的に皆大好きです。スザルル萌ですが、黒騎士ロイドも好物だったりします。
捏造・パラレルネタ、エロよりもグロとか暴言が多いと思われますのでご注意を。