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嘘つきパラドクス
「ルルーシュ・ランペルージは嘘吐きである」とルルーシュ・ランペルージは言った。さて嘘か真か?
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2024-11-22 [Fri]
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2008-04-07 [Mon]






「副総督、補佐……ですか?」



 第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアの騎士となり、周囲の視線の厳しさに負けないように、そして皇女の期待に答えるべくより一層訓練に励むスザクの耳に届いたのは、何故か歪な響きを持つ単語だった。
 それを告げたセシルも幾分か複雑な面持ちで、トレイに乗せたコーヒーを差し出している。
「ええ……どうも、シュナイゼル宰相閣下がコーネリア殿下に直々に申し込んだらしいの。ほら、ユーフェミア殿下は本国では学生でいらしたから、戦場を駆けるコーネリア殿下を補佐して政治的なサポートをするには経験が足りないだろうって」
「……そう、なんですか……」
「な~んか今更って感じ~? ま、仕方ないんだろうけどぉ?」
 セシルの説明に相槌を打ちながらも、どうにも釈然としない気持ちを覚えるスザクに、笑いを含んだロイドの声が届いた。セシルとスザク、二人に見つめられてもコンピュータ画面から顔を上げず、ロイドは続ける。
「元々ユーフェミア殿下がお飾りの副総督だってのは周知の事実、暗黙の了解って奴でしょ~? 本当に心配してるなら最初から補佐官付きで寄越すよ、シュナイゼル殿下はぁ。なぁのにぃ、こぉんな風にいきなりの派遣って事はぁ、やっぱ純血派に派手にせっつかれたんだろぉねぇ」
「え、」
「ロイドさん!」
 咄嗟に出たのだろうセシルの右手を頭を低くする事で避け、珍しく不満げな視線で有能すぎる部下を見上げた特派主任は、でもはっきり言っておいた方が少佐だって安心でしょと口角を上げた。
「つーまりねぇ、枢木少佐。君のユーフェミア殿下の騎士就任は、当然の事ながら本国では不評と不平と不満の嵐って事! 博愛に生きる『慈愛の姫』には似つかわしいエピソードかもしれないけど、元々リ家のお二方の母君は公爵家の末姫で『由緒正しいブリタニア人』だ。娘の騎士がナンバーズだなんて有り得ない、認めたくない事だろぉしね~」
「……」
「だからぁ、多分今回来る補佐官はユーフェミア殿下の補佐の振りして、実の所は監査官でもある訳ぇ! 君、今以上に気が抜けなくなるねぇ~? うっかりすると、その大事な大事な騎士章、取り上げられちゃうかもしれないよぉ?」
「ロ・イ・ド・さ・ん!!!」
 ごっ、と肉がぶつかるには少々重い音を残して、今度こそロイドの体が机の下に落ちた。



 特派での軍務を終え、ユーフェミアの元へ向かおうとしたスザクを呼び止めたのは、コーネリアの専任騎士・ギルフォードだった。苦い顔を隠そうともせずに、総督の執務室まで同行するよう告げるとさっさと歩き出してしまう。
 いち早く主の下へ参じたい気持ちもあるが、上官でありこのエリアの最高責任者であるコーネリアの招聘に応じない訳には行かない。何より彼はもう僅かな粗を見せることも許されない立場となってしまったのだ。スザクに出来る事は、表情を改めてきびきびとギルフォードについていく事だけだった。
 手ずからに執務室の扉を開かれ、先に入るように促される。入室し敬礼したスザクを、コーネリアの鋭い眼光が貫いた。彼女が座する執務机の隣には、妹であり副総督、そしてスザクの新しい主でもあるユーフェミアが、愁いを帯びた笑みで彼を見つめていた。
「副総督補佐の話は聞いたか」
 拝謁の口上を述べようとしたスザクを制して告げられた言葉に、やはりそれで呼ばれたかと内心重たくなりながら頷き返す。
「はい、先ほど。噂話程度のものではありますが」
「……一昨日、シュナイゼル・エル・ブリタニア宰相閣下より通達があった。騎士を得て本格的に副総督として活動をせねばならないユーフェミアに補佐をつける、とな。テロリストの動きが活発になっている今、『僅かな隙も見せるべきではない』との事だ」
 それが意味するところは当然解るな。
 苦々しく表情を歪め、スザクを睨むコーネリア。妹を溺愛している彼女にとって、騎士を得るという華々しい姿である筈のそれが真逆に妹の経歴に泥をぬっている事実は耐え難いものだろう。スザクの騎士就任は奴隷に等しく扱われる名誉ブリタニア人達にとっては誇らしい第一歩である事だが、実際にはロイドが指摘するとおり、純血を重んじるブリタニア人にとっては絶対に有り得ない、あるいは有り得てはいけない事なのだから。
 更にそれによって、『僅かな隙』が出来るだろうという宰相の指摘は、誇り高いコーネリアにとって屈辱以外の何にもなりはしない。悔しい事に指摘は現実のものになりつつあるからだ。元々コーネリア自身がナンバーズを区別する人物であったのも災いした。スザクを解任させるようコーネリアに、あるいはユーフェミアに直接働きかける者も出ている始末。コーネリアに来た者にはどうとでも言い訳が出来る。だがユーフェミアへと向かった者たちは、頑なにスザクを擁護する姿に、ユーフェミアへの侮蔑を隠そうともしなくなった。それを目の端に捕らえるたび(彼らはコーネリアの前ではそれを綺麗に隠してしまうのだ)、どうしようもない苛立ちがコーネリアの胸を痛めつける。
 だからといってその苛立ちを妹にぶつける訳にも行かず、結果怒りは妹の目に留まるような所に現れた(それが完全な八つ当たりである事は言わずもがなだ)枢木スザクへと向けられることになる。
 重くなった沈黙に耐えかねたらしいユーフェミアが一歩スザクの方へ進み出た。それすらも気に食わないと背後で赤紫の瞳が細められるが、あえてそれは無視しておく。スザクにとって重要なのはコーネリアよりもユーフェミアの意思なのだから。
「急な話で申し訳ないのですが、明後日、補佐官がエリア11入りされます。スザクは私と共にお出迎えして欲しいのです」
「イエス、ユア・ハイネス」
「お願いしますね。では総督、私は執務に戻ります。我が騎士とも補佐官をお迎えする際の打ち合わせをしなければなりませんし」
「ああ、しっかりな。いいか枢木、決して付け入られるような隙だけは見せるな。これ以上ユーフェミア、副総督を貶めるような事があれば、枢木、補佐官より先に私が貴様を切り捨ててやるぞ」
「では! 失礼いたします!」
 ギルフォードの手ずから開かれた扉に向かおうとした背に飛ばされた激を遮る様に、ユーフェミアは珍しく声を荒げて暇を告げた。苦しげな顔で退室した彼女を追うべく、しかし姉姫の気持ちはしっかりと胸に抱いているのだと告げるように目礼をし、スザクもまた総督の前から辞した。
 静かに扉は閉じられた。
 専任騎士の労わりを宿した視線だけが、憔悴したコーネリアを包んでいる。
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