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嘘つきパラドクス
「ルルーシュ・ランペルージは嘘吐きである」とルルーシュ・ランペルージは言った。さて嘘か真か?
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2024-11-22 [Fri]
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2008-04-17 [Thu]






 ブリタニア皇宮においてもっとも有名な事件は、第五皇妃マリアンヌが殺害された『アリエスの悲劇』である。
 庶民出でありながら騎士候となり、皇帝に召し上げられ皇妃にまでなった女性。彼女が、主義者によるテロリズムによって殺害された事件は、七年経った今も尚国民の間で語り継がれている。更に彼女の子息と息女が開戦間近のエリアへと送られ命を落としたという事実もその悲劇性を助長する手助けとなり、未だ止まぬ国民の悲憤の声からも、彼女がどれほど国民に愛されていたのかが伺えるものだ。
 だが、その悲劇の前にもう一つ、悲劇があった事は余り知られていない。
 第七皇妃暗殺未遂事件。
 『アリエスの悲劇』のほんの一週間前に起きたその事件は、あくまで未遂であったが故に後に続いた事件に隠された。
「寧ろ意図的に隠蔽されたのだと、俺は思っている」
 呟く暗い声は明らかにその事に怒りを抱いているものだ。ぎり、と奥歯を噛み締める様子に、恐らく彼の推測こそが事実なのだろうと察して手を強く握った。
「あれが起きたのは、第七皇妃の出産を祝う為のティーパーティだ。産まれたのは女児で、継承権も与えられなかったが、第七皇妃は伯爵の出だったからな。後ろ盾になった貴族や親しくしていた皇妃達によってセッティングされた。意図としては、他の(皇帝に相手にもされていない名ばかりの)皇妃達に、彼女は望まれる皇妃であるという事を見せ付ける為のものだった」
 中心になったのは第二、第三、第八皇妃と第七皇妃の後ろ盾の貴族達で、彼らは正に皇宮の権力争いのトップランカーでもあった。
「母上は最初、お祝いの言葉を伝えるだけにしようと思っていらした。第七皇妃は母上とは関わりたくないと明言していたからな。だが、パーティの前日になってごり押しされたんだ」
 是非ご子息、ご息女と共にいらしてほしいと、第七皇妃の侍従は告げた。
 疑問をはさむ事は許されなかった。
「結局母上は頷かざるを得ず、俺達は気乗りもしないティーパーティに参加する羽目になった。当然、視線は冷たいものだったよ。子供の披露だというのに俺達は顔を見るどころか近付けもしなかった。まあ、見たいとも思わなかったが」
 マリアンヌは他の皇妃に連れられてテーブルについていたが、ルーシウス達は誘われもしなかった。仕方なく三人は遠巻きに母の様子を伺いながらも庭の隅で大人しく遊ぶ事にした。機転の利いたルルーシュが携帯用のチェスボードを持ってきていたお陰で暇になる事もなく、時間は過ぎていった。
 しかし、手洗いに立ったルルーシュが戻ってきた時、その顔色の酷さにぎょっとした。どうしたのかと聞いても答えず、ただナナリーを抱き締めるとルーシウスの言う事をきちんと聞くように、と告げた。頷きながらも不安に涙目になるナナリーを離すと、今度はルーシウスに抱き付いて嗚咽を堪えた声で、母上とナナリーを頼む、とだけ洩らした。
「今から思えば、あいつはその時に決定的な何かを見聞きしたんだろう」
 絶望に満ちたそれに混乱するルーシウス達を置いて、ルルーシュはすぐさま母のいるテーブルへと駆け寄った。そして彼女の為に今正に注がれたばかりの紅茶をせがんだのだ。
 普段から自分の行動が母や妹を蔑む原因にならぬようにと律していた兄が、まさか他皇妃の前でそんな浅ましい真似をするなど、俄かには信じられなかった。マリアンヌも同じ思いだったのか、ぎょっとしはしたものの、どうにか息子を宥めようと言葉を紡ごうとした。皇妃達も彼を嘲笑った。そしてメイドに新たな紅茶をと指示をだそうとした。
 だが、既に遅く。
 子供らしいすばしこい動きで母のティーカップを手に取ると、ルルーシュはまだ熱も冷めぬそれを一気に飲み干してしまった。熱かったのだろう、痛みを堪える顔でごくりと喉を鳴らしたルルーシュに、誰もが言葉を失った。第三皇妃と第七皇妃が青い顔で立ち上がる。だが何を言えばいいのか解らぬ様子で、ルルーシュとマリアンヌを見比べるだけだった。
 カップをテーブルに戻したルルーシュは、無礼を叱ろうとする母にぎこちない笑みを見せ、引き攣った声で小さく「母上、愛してます」と告げ、そのままそこにくずおれた。
「後はただ混乱の中だ。痙攣するルルーシュを母上が半狂乱になって呼ぶ声、悲鳴を上げる皇妃やメイド、飛び込んできた警備兵、俺はただ泣き出したナナリーを抱き締めて、促されるままに離宮に戻る事しか出来なかった」
 その翌日、マリアンヌは帰ってきたがルルーシュは帰ってこなかった。処置が速かった為に辛うじて命は拾ったが、大人も簡単に殺せる量の毒を呷った為、未だ予断を許さぬ状態で意識も戻っていないのだと、目を真っ赤にしたマリアンヌに抱き締められた状態で聞いた。
 調査の結果解ったのは砂糖壷に即効性の神経毒が混入されていた事。
 それを頭から信じるほど、ルーシウスは愚かではなかった。あの時マリアンヌは砂糖など一さじも入れなかったのだ。そのタイミングも無くルルーシュが飲み干してしまったのだから。なのにそれを飲んだルルーシュは倒れた。
 意味するところは一つしかない。
「毒は砂糖壷ではなく、母上の飲む紅茶に最初から入っていたんだ。…………母上を、殺す為に。あいつは母上を護る為に身代わりになった」
「……何でルルーシュ…お兄さんは毒の事を言わなかったんだろう? その場で問い詰めれば」
「そんな事をすれば母上の立場が危うくなる。事実は綺麗に隠蔽され、あらぬ嫌疑をかけたと追い立てられるのがオチだ」
 マリアンヌもそれは解っていたのだろう。公式に出されたその触れに否定の言葉を発する事は許されず、ナナリーには告げぬ事、ルルーシュが目覚めるまで三人で耐え抜く事を約束し、その日は眠った。
 しかし―――その一週間後、悲劇は再び彼らに舞い降りた。
 『アリエスの悲劇』である。
「結局母上は亡くなり、ナナリーは目と足を病んで……俺はルルーシュとの約束も守れず、目覚めも待ってやれないまま、日本に来る事になってしまった…」
 だから、せめて。
 せめて名前だけでも共に連れてきたかった。それが相手を騙す事になったとしても構わない。自分達は何処までも一緒に在り続けるのだという、ルーシウスなりの意思表明だった。ナナリーもそれに賛同した。唯一人、母も自分達もいなくなった国に残してきてしまった兄を思い、たとえ伝えられない思いであっても、と。
「…………結果としてそれが、お前を騙す事になった……。…でも、決して悪気があった訳じゃない事だけは…信じて欲しい」
 吐息のように囁いて、ルーシウスは言葉を途切れさせた。
 スザクにはもう何も言えなかった。
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