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嘘つきパラドクス
「ルルーシュ・ランペルージは嘘吐きである」とルルーシュ・ランペルージは言った。さて嘘か真か?
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2008-05-03 [Sat]
えらい勢いで視点が変わってすみません。







 朝日に照らされながら、とぼとぼと歩く。
 結局スザクはあの後強引にベッドに押し込まれてしまい、それ以上何も話す事が出来なかった。それどころか今朝起きた途端に「お前忙しいんじゃないのか」「無理してこちらに来たのなら早めに戻った方がいいだろう」とナナリーに会う事も侭ならないままクラブハウスから放り出され(「朝食にしろ」とサンドイッチの入った袋を渡された)、結果一人寮への道を歩く事になっている。
 やはり怒っているのだろうか。KMFに乗っていた事を隠していた、それがどんな思いの上の行為であれ、嘘をついていたのだから。だがそれならばスザクが解らない筈が無い。ならば、スザクの混乱を慮ってなのだろうか。一気に色々な情報を与えられた事でパニックを起こしかけていたのは否めない。
 もっときちんと時間を取って話をしなければと思う。やっと一歩、前に進めた自分の決意も聞いてもらいたいし、何より彼に、少しでも安心をしてもらいたかった。軍に戻ったら、一日でいいから休みを貰おう。
 新たに決意をして、顔を上げたスザクはまだ混乱の中にあって、だからこそ気づく事が出来なかった。

 あれほど頑なにスザクの帰還を望んだルーシウスが、「またな」といわなかった事に。





***





 スザクを送り出し、その背中を僅かな間だけ見送ると、ルーシウスは迅速に動き出した。まず中等部と高等部それぞれに今日は休むと連絡を入れ、ナナリーに学校を休む事、そして大事な話がある旨を告げて朝食を進める。ルーシウスの声の硬さに気づいたナナリーが不安げに震えたが、これからもっと酷な事を言わなければならないルーシウスはその手を握ってやる事しか出来ない。
 ひしと感じる緊張の為か、ナナリーの食は進まなかった。半分近く残したそれの片付けは沙世子に任せ、少しでも安らいでもらえないかと(無理である事は重々承知だが、愛しいナナリーを思えば何もせずにはいられなかった)ナナリーの好きな紅茶を入れて、ナナリーの部屋へ入った。沙世子には決して近付かぬようにと、釘だけはさして。
 普段は穏やかで優しい気持ちに慣れる場所が、不穏な気配で満たされるのが悲しい。
「ナナリー」
 呼べば、細い肩がびくりと跳ねる。きっとナナリーは、ルーシウスの声だけで大体の把握をしただろう。彼女はただ護られるだけの幼い少女ではない。七年の間、自分を殺しながら立ち続け、時に崩れそうになったルーシウスを小さな手で支えてきた強く賢い女性だ。とは言え、彼女が目を閉じ続けている――未だ世界に恐怖している事も事実で、更に今彼は彼女の住む優しい箱庭を壊す言葉を囁こうとしている。最も護りたい、護らなければならない少女にそれを告げるのは、ルーシウスの心をも痛めつけた。
 それでも、このままではいられない。
 傍に跪き手を握れば、思うよりも強い力で握り返される。
「ナナリー……ルルーシュがこっちにやって来る」
「!! ルルーシュ、お兄様が…?」
「スザクを騎士としたユーフェミアの補佐官として、明日、こちらに着くそうだ」
 ルルーシュが一命を取りとめ、シュナイゼルの庇護下に入った事、その後シュナイゼルの片腕となるまでになった事は教えてあった。その事をナナリー自身も喜んではいた(「シュナイゼルお異母兄様に見てもらえるなら、もうルルーシュお兄様が危険な目に遭う事はありませんよね…?」)。
 しかし、そのルルーシュが此方に来るとなれば話は違ってくる。
 そっくりな双子の兄がエリア11に来て、もしメディアに顔が出たら。
 同じ顔を、そして表向きにはルルーシュと名乗っているルーシウスに注目が行くのは当然の帰結であり、そこから自分達の事が判明しないとも限らない、否、絶対に見つかるだろう。アッシュフォードは全寮制とはいえ、そこに暮らす生徒達の情報を制限している訳ではない。名家の子息女が通うこともあり、中にはブリタニア人らしい野心溢れる者とているのだ。彼らがこんな情報を逃すとは思えない。
 ナナリーとて遠く離れ続けた兄には逢いたがっていた。だが、兄に逢うという事は生存している事が知れるという事であり、皇宮へ連れ戻されるかもしれないという事だ。その先にある闇を、恐怖を、ナナリーの心は忘れていない。あの場所の事を考えるだけで身体が自然と震え、既に傷しか残らぬ足に痛みが蘇るようだ。
 一息に血の気を無くしたナナリーを咄嗟に抱き締める。庇護者たる兄に抱かれながらも、小さな桜色の唇から漏れたのは絹を裂くような悲鳴だった。
「いや、いやああああああああ!! ぁっ、あ、ああああああああああ……」
「ナナリー、ナナリー落ち着いて、ナナリー」
「あぁあ…っ………お兄様…! お兄様っ、私……私酷い、醜いですっ! ルルーシュお兄様はずっと、七年も、たったお一人であの場所で頑張っていらして、なのに私…っ………私は、ルルーシュお兄様に会うのが怖い…会いたくない…!!」
「っ……俺も同じだよナナリー、俺もだ、あいつを忘れないと、心だけは傍にいると言っていながら、あいつの名を奪っていながら、俺もあいつに会うのが怖いと思っている……酷い、弟だ…」
 悲痛に叫び泣きじゃくるナナリーに、ルーシウスもまた震える身体を抱き締めながら唇を噛み締めて嗚咽を堪える事しか出来ない。
 ナナリーの心を苛む七年前の悪夢。そして、離れた兄に逢う事を恐怖する己への絶望。同じものを自らも抱くルーシウスには解る。心は傍にと彼の名を名乗りながら、いざ出会うかもしれないという事実に恐怖し、彼を避けたい、彼から逃げたいと思ってしまう自分の浅ましさ。醜さ。ルーシウスですら耐え難く身を焼くそれを、ナナリーも感じ、そして自分以上に絶望している。
 だが、今はその悲嘆に身を浸している暇は無い。時間は刻一刻と過ぎているのだ。
 だから、今は。
「……………キョウトを頼ろうと思っている」
「え、……」
「アッシュフォードはもう安全な場所ではなくなった。これからルルーシュの世話をしなければならない彼らに頼るのはこれ以上無理なんだ。…もしかしたらもう調査の手は入ってるかもしれない……お前を護りきれない」
「お兄様……でも………」
「アッシュフォードには本当に世話になったけれど……ミレイの見合いの話もある。これ以上隠蔽し続けるのは、無理だろうしな…」
 どちらにせよタイムリミットは近かったのだ。それが僅かに早まっただけ。
 戸惑うナナリーの額に口付け、頬を拭ってやりながら、心の中で苦く笑んだ。そう、全てはルーシウスがゼロとなり、クロヴィスを手に掛けた時から動いてしまっているのだ。坂道に置かれたボールが転がるように、それは当然の事。
「ルルーシュには悪いが、もう俺達はあそこへは戻れない。戻るには余りに遅すぎるんだ。生きている事を知られるのは仕方ない、でも戻る事だけは出来ない……解るね、ナナリー」
 膝を突き、手を取り合って告げる。はらはらと涙を零しながらも、ナナリーは本当に小さくだが、確かに頷いた。彼女は自分達の置かれている状況、そして戻った時に自分達が置かれるだろう状況まできちんと理解している。それでもやはり、後ろめたさや心苦しさは解ける事は無い。
「……ルルーシュお兄様は…私達を恨めしく思われるでしょう、ね……」
 生きていた事を隠し、更にまた彼から逃げようとする自分達を。
「…解ってくれるよ……きっと、ルルーシュなら解ってくれる…」
 余りに白々しい言葉だと自分でも解っている。
 それでも。
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