2008-10-06 [Mon]
さs(ry
そして短い。
そして短い。
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『以上が本国の動きです。―――いかがされますか、ゼロ』
愉快でたまらないと言った声が携帯越しに聞こえてくる。
あのジャーナリストにとって、新たなる織火となるだろう事態は歓迎すべきものなのだろう。ここでもし、秘密裏に来訪した皇族にまでも土をつける事が出来れば、黒の騎士団は更なる評価を得る事が出来る。それと同時に『ゼロ』は高みに上り、侍る彼もまた同じく階段を上るのだから。
彼の脳内で繰り広げられているだろう妄想が容易に理解でき、流石のゼロも苦笑を禁じえない。
「もしも皇子がコーネリアに求められるなら警戒に値すべき事だ。だが今は飽くまでユーフェミアの御守り、恐れる事ではない」
『ですが、』
「皇子の来訪理由を鑑みれば、コーネリアが皇子に助言を求める事はないだろう。あの皇室で生き残ってきた皇子が分不相応に口を挟む事もあるまい。通常調査と監視以外では決して手を出すな」
『……』
「何より本国を離れたとて、あれはシュナイゼルの手駒の一つ。皇子が連れてきた親衛隊も戦力が測れていない今、仕掛けるのは早計だ。恐れるではないが、ヘタに突付いてシュナイゼルに腰を上げられてもたまらないしな」
『解りました。では、監視を続行いたします』
途切れた音に、同じく終話ボタンを押して携帯を閉じる。どうやら我知らず緊張していたらしい。携帯を握った手がうっすらと汗ばんでいることに、ルルーシュは小さく息を洩らし、静かに視線を上げた。
映るのは、個人的な物をごっそりと欠いた、殺風景な部屋。
時間が無い為、最低限のものしか選ばなかった。大半の服や本は置いていく。それでも、見慣れたものがないというだけで酷く空虚に映る。最近は魔女のせいで散らかり気味だったからなおさら。今頃はナナリーの部屋も同じ空虚に包まれている筈だ。
ナナリーを思うと酷く申し訳なくなる。折角得ることの出来た、小さいながらも幸せに包まれた世界だったのに。この先には危険しか待っていないのに。
(………でも、ここに置いていく訳には行かない)
いつアッシュフォードに利用されるかもわからないのだから。
ルーベンやミレイは護ろうとしてくれるだろうが、ミレイの父母がルルーシュ達をよからぬ目で見ている事には早い段階で気づいていた。最近はなにやら手を回そうとしているらしい事も。ミレイが伯爵家との婚約を受け入れているから、その手土産にとでも考えたのだろう。
唇を噛み締めるルルーシュの耳に、軽いノックが届く。応えを返せば、見慣れたメイド服を隙無く身に纏った沙世子が姿を現した。
「失礼いたします。ルルーシュ様、ルーベン様がいらっしゃいました」
「解った……ナナリーは?」
「ナナリー様はお支度を終えられまして、今はお部屋の方にいらっしゃいます」
「そう、か」
礼と共に退出した沙世子を目を細めて見送り、ルルーシュはもう一度部屋を見渡す。
何かを惜しむように。
何かを捨てるように。
やがて、ずっと右手で玩んでいたチェスピースをローテーブルに置くと、トランクを取り部屋を出て行った。
主が消えた部屋に、白のナイトだけが取り残された。
愉快でたまらないと言った声が携帯越しに聞こえてくる。
あのジャーナリストにとって、新たなる織火となるだろう事態は歓迎すべきものなのだろう。ここでもし、秘密裏に来訪した皇族にまでも土をつける事が出来れば、黒の騎士団は更なる評価を得る事が出来る。それと同時に『ゼロ』は高みに上り、侍る彼もまた同じく階段を上るのだから。
彼の脳内で繰り広げられているだろう妄想が容易に理解でき、流石のゼロも苦笑を禁じえない。
「もしも皇子がコーネリアに求められるなら警戒に値すべき事だ。だが今は飽くまでユーフェミアの御守り、恐れる事ではない」
『ですが、』
「皇子の来訪理由を鑑みれば、コーネリアが皇子に助言を求める事はないだろう。あの皇室で生き残ってきた皇子が分不相応に口を挟む事もあるまい。通常調査と監視以外では決して手を出すな」
『……』
「何より本国を離れたとて、あれはシュナイゼルの手駒の一つ。皇子が連れてきた親衛隊も戦力が測れていない今、仕掛けるのは早計だ。恐れるではないが、ヘタに突付いてシュナイゼルに腰を上げられてもたまらないしな」
『解りました。では、監視を続行いたします』
途切れた音に、同じく終話ボタンを押して携帯を閉じる。どうやら我知らず緊張していたらしい。携帯を握った手がうっすらと汗ばんでいることに、ルルーシュは小さく息を洩らし、静かに視線を上げた。
映るのは、個人的な物をごっそりと欠いた、殺風景な部屋。
時間が無い為、最低限のものしか選ばなかった。大半の服や本は置いていく。それでも、見慣れたものがないというだけで酷く空虚に映る。最近は魔女のせいで散らかり気味だったからなおさら。今頃はナナリーの部屋も同じ空虚に包まれている筈だ。
ナナリーを思うと酷く申し訳なくなる。折角得ることの出来た、小さいながらも幸せに包まれた世界だったのに。この先には危険しか待っていないのに。
(………でも、ここに置いていく訳には行かない)
いつアッシュフォードに利用されるかもわからないのだから。
ルーベンやミレイは護ろうとしてくれるだろうが、ミレイの父母がルルーシュ達をよからぬ目で見ている事には早い段階で気づいていた。最近はなにやら手を回そうとしているらしい事も。ミレイが伯爵家との婚約を受け入れているから、その手土産にとでも考えたのだろう。
唇を噛み締めるルルーシュの耳に、軽いノックが届く。応えを返せば、見慣れたメイド服を隙無く身に纏った沙世子が姿を現した。
「失礼いたします。ルルーシュ様、ルーベン様がいらっしゃいました」
「解った……ナナリーは?」
「ナナリー様はお支度を終えられまして、今はお部屋の方にいらっしゃいます」
「そう、か」
礼と共に退出した沙世子を目を細めて見送り、ルルーシュはもう一度部屋を見渡す。
何かを惜しむように。
何かを捨てるように。
やがて、ずっと右手で玩んでいたチェスピースをローテーブルに置くと、トランクを取り部屋を出て行った。
主が消えた部屋に、白のナイトだけが取り残された。
2008-08-25 [Mon]
挿絵m(ry
エアロックが鋭い音を立てて開き、中から数人の人影が滑り出した。
補佐官かと一瞬身構えたものの、出てきたのは黒い軍服に揃いの帽子とバイザーを着用した軍人だった。SPか親衛隊か、数名はそう長くもないタラップに一定の距離を置いて立ち、残りはスザクたちの元までの花道を両脇から警護するように並び立った。
駐留の兵士と一角を迅速な動きに感嘆を抱く間に、タラップの上には新たな影が二人分、姿を現していた。
片方は出てきた者たちと同じ黒の軍服に身を包んだ青年、まだ新兵なのか、動きが硬くぎこちない。ではもう片方がと視線をずらし、スザクは知らず目を瞠っていた。
白を基調とした皇族服は金糸銀糸で細やかな刺繍が縫いこまれながらもシンプルで上品な物。マントは上位皇族がよくまとう鳥の羽根を模したものだが色は襟からすそにかけて純白から菫色の淡いグラデーションで彩られており、細身の身体にそって緩く合わせられているせいか、コーネリア達の様な羽ばたくイメージよりもそっと水辺にたたずむ白鷺のような静かなイメージを与えるものだった。手は絹の手袋に包まれて、右手は共に立つ青年へ、左手は金細工で装飾された紫檀の杖を握っている。全てが白系で統一されているように見える中、ゆっくりと上げられたのは黒絹にも似た艶やかな髪。白い面には細身の眼鏡が乗っており、深い紫の瞳が居並ぶ兵士とスザク達を捕らえた。
薄い唇が、柔らかな弧を描いた。僅かに傾けられた首。
その笑みはまるで――――。
「ルルーシュ!!」
隣から上がった声に肩が跳ねた。スザクの様子に気を向ける事無く、一歩踏み出したユーフェミアが嬉しそうに胸で手を組んだ。それににこりと笑みを返し、ルルーシュと呼ばれた少年――いや、彼こそがルルーシュなのだが――は左手の杖を介助していた兵士に手渡すと、手すりに触れながら一歩一歩階段を降り始めた。途中タラップに並んだ兵士達が手を差し伸べ、細心の注意を払いながら彼が降りるのを手助けする。
「そういえばルルーシュ殿下は右足がお悪いんでしたね」
「正確には、右半身麻痺だよ。まあ使われたモノと量を考えれば、あぁやってるのが奇跡らしいけどねぇ」
ぼそぼそと背後で囁きあう上司二人の言葉が嫌に耳に残る。その話は予め聞いてはいたものの、やはり当人達以外から聞くのはどこか後ろめたく感じてしまう。
健常者よりも時間をかけて降りきったルルーシュは、再び杖を受け取ると右手を兵士に預け思うよりもしっかりとした足取りでユーフェミアの前まで進み来た。そしてそのまま僅かに頭を垂れる。
「久方ぶりで御座います、ユーフェミア皇女殿下」
「ええ、久しぶり! この度は私の至らなさからこのような所まで呼び出す羽目になってしまい、本当にごめんなさい」
「どうかお気になさらず。飽くまで提案であったものを、自らお受けになる決断力とその向上心を思えば、お手伝い出来る事に名誉を覚えこそすれ謝罪される事など何もございません」
「…………」
「…………」
不意に二人がそろって口を閉ざす。
二呼吸ほどの間が開き、周囲が首を傾げ出した時、ユーフェミアが噴出した。体を起こしたルルーシュに体当たりするように抱きつき、揺らいだその体を周囲の騎士達があわてて支えた。
「ルルーシュ! ルルーシュ久しぶり!!」
「本当に久しぶりだね、ユフィ! すっかりレディになったと思ったのに、全然変わってないな、君は。庭で走り回っていたおてんばのままだ」
「まあ失礼ね! これでも副総督なのよ?」
「なら口上を終わらせる前に飛びついたりしないでくれ、副総督なんだろう?」
わざとしかめ面してみせ、支えてくれた騎士たちに礼を言って改めて立ち直したルルーシュに機嫌よくひらりとドレスを翻すと、ユーフェミアは改めて笑顔となった。
「では改めて、エリア11へようこそ、ルルーシュ! 歓迎するわ!!」
補佐官かと一瞬身構えたものの、出てきたのは黒い軍服に揃いの帽子とバイザーを着用した軍人だった。SPか親衛隊か、数名はそう長くもないタラップに一定の距離を置いて立ち、残りはスザクたちの元までの花道を両脇から警護するように並び立った。
駐留の兵士と一角を迅速な動きに感嘆を抱く間に、タラップの上には新たな影が二人分、姿を現していた。
片方は出てきた者たちと同じ黒の軍服に身を包んだ青年、まだ新兵なのか、動きが硬くぎこちない。ではもう片方がと視線をずらし、スザクは知らず目を瞠っていた。
白を基調とした皇族服は金糸銀糸で細やかな刺繍が縫いこまれながらもシンプルで上品な物。マントは上位皇族がよくまとう鳥の羽根を模したものだが色は襟からすそにかけて純白から菫色の淡いグラデーションで彩られており、細身の身体にそって緩く合わせられているせいか、コーネリア達の様な羽ばたくイメージよりもそっと水辺にたたずむ白鷺のような静かなイメージを与えるものだった。手は絹の手袋に包まれて、右手は共に立つ青年へ、左手は金細工で装飾された紫檀の杖を握っている。全てが白系で統一されているように見える中、ゆっくりと上げられたのは黒絹にも似た艶やかな髪。白い面には細身の眼鏡が乗っており、深い紫の瞳が居並ぶ兵士とスザク達を捕らえた。
薄い唇が、柔らかな弧を描いた。僅かに傾けられた首。
その笑みはまるで――――。
「ルルーシュ!!」
隣から上がった声に肩が跳ねた。スザクの様子に気を向ける事無く、一歩踏み出したユーフェミアが嬉しそうに胸で手を組んだ。それににこりと笑みを返し、ルルーシュと呼ばれた少年――いや、彼こそがルルーシュなのだが――は左手の杖を介助していた兵士に手渡すと、手すりに触れながら一歩一歩階段を降り始めた。途中タラップに並んだ兵士達が手を差し伸べ、細心の注意を払いながら彼が降りるのを手助けする。
「そういえばルルーシュ殿下は右足がお悪いんでしたね」
「正確には、右半身麻痺だよ。まあ使われたモノと量を考えれば、あぁやってるのが奇跡らしいけどねぇ」
ぼそぼそと背後で囁きあう上司二人の言葉が嫌に耳に残る。その話は予め聞いてはいたものの、やはり当人達以外から聞くのはどこか後ろめたく感じてしまう。
健常者よりも時間をかけて降りきったルルーシュは、再び杖を受け取ると右手を兵士に預け思うよりもしっかりとした足取りでユーフェミアの前まで進み来た。そしてそのまま僅かに頭を垂れる。
「久方ぶりで御座います、ユーフェミア皇女殿下」
「ええ、久しぶり! この度は私の至らなさからこのような所まで呼び出す羽目になってしまい、本当にごめんなさい」
「どうかお気になさらず。飽くまで提案であったものを、自らお受けになる決断力とその向上心を思えば、お手伝い出来る事に名誉を覚えこそすれ謝罪される事など何もございません」
「…………」
「…………」
不意に二人がそろって口を閉ざす。
二呼吸ほどの間が開き、周囲が首を傾げ出した時、ユーフェミアが噴出した。体を起こしたルルーシュに体当たりするように抱きつき、揺らいだその体を周囲の騎士達があわてて支えた。
「ルルーシュ! ルルーシュ久しぶり!!」
「本当に久しぶりだね、ユフィ! すっかりレディになったと思ったのに、全然変わってないな、君は。庭で走り回っていたおてんばのままだ」
「まあ失礼ね! これでも副総督なのよ?」
「なら口上を終わらせる前に飛びついたりしないでくれ、副総督なんだろう?」
わざとしかめ面してみせ、支えてくれた騎士たちに礼を言って改めて立ち直したルルーシュに機嫌よくひらりとドレスを翻すと、ユーフェミアは改めて笑顔となった。
「では改めて、エリア11へようこそ、ルルーシュ! 歓迎するわ!!」
2008-06-24 [Tue]
挿絵もどきは(ry
予定よりわずかに遅れ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの乗る飛行機が到着した。
ゆっくりと高度を下げる飛行機を見上げながら、ユーフェミアはそわそわと落ち着かない。彼女は前日からこんな様子で仕事もなかなか手につかず、終いにはコーネリアにすら呆れられていたほどだ。
一方のスザクもまた、結局あの翌朝、忙しいんだろうとばかりにクラブハウスから追い出されてまんじりとしない一日を過ごし、少々寝不足気味で頭の奥がぼんやりとしていたりする。
それでもわずかに残った理性をかき集め、早く駆け寄りたいとうずうずするユーフェミアを小さく諌めた。
「ユーフェミア様、あの、一応他の官僚たちの目もありますから…」
「わ、解っています! でも早く会いたいんだもの…」
彼女の無邪気さや奔放さを考えれば微笑ましい姿ではあるのだが、周囲の目はあまりよろしくはない。それは彼女に与えられた『お飾り』という評価のせいであり、今回やってくる補佐官のせいなのだが、何せ評価を受けるはずの本人がその補佐官を歓迎しているのだ。礼儀のなっていない者は鼻白んだ表情を隠そうともしない。
思い切り睨み付けてやりたいところだが、態度に出すと更にユーフェミアの評判を落としかねない為、それも出来ない。あぁイライラする、と内心で巨大なため息を落とした。
だがどうやらそれはちょっとだけ漏れたらしい。ふ、とついた息を聞きつけたか、ユーフェミアの眉尻が下がった。
「やっぱり私、だらしないかしら」
「え、あ、いえっ!」
「だって本当に久しぶりなんですもの…。同じ本国にいても、学生だった私と違ってルルーシュは本当に忙しくて、ここ二年ほどは殆ど顔を合わせていなかったの」
「本国に居られたのに、ですか」
「そうなの! 本国ではシュナイゼルお異母兄様のお手伝い、その合間にエリア21や23を行き来するのに精一杯で、騎士就任式も帰国の合間を縫ってお父様とシュナイゼルお異母兄様を立会いにしただけで殆ど表に顔を出さないで終わらせてしまったのよ?」
私も立ち会いたかったのに!と握り拳のユーフェミアの頭上を護衛機が五機、轟音を立てながら滑り抜け、別の滑走路に大型輸送機が二機着陸した。
更に皇族専用のシャトルが静かに着陸した。
愈々持って目を輝かせるユーフェミアと並んでシャトルを見上げる背後で小さく諌めるような声を聞きつけ、咄嗟にユーフェミアをかばい振り返る。
白衣とオレンジの軍服がそこに立っていた。
「ロイドさん、セシルさん!?」
「はぁい、特派でっす!」
「あら、お二人もお出迎えなのですか?」
ぎょっと目を剥いたスザクの背中からひょっこり顔を出し、ユーフェミアがのんきな声を上げた。穏やかな笑みにやはり笑みを返しながら、セシルが頷いた。
「そうなんです。昨夜シュナイゼル殿下から連絡がありまして、」
「ほらぁ、ルルーシュ殿下ってばシュナイゼル殿下の補佐官の一人でしょお? だから、僕達にもお出迎えしてくれないか~ってね~。更にさーらにぃ、ルルーシュ殿下の騎士のKMFのメンテも僕らにさせるんだってさ!! 僕らだって暇じゃないってのにねー? きちんと政庁の軍基地にスペース空けてもらってるんだからそっちに頼めばいいのにさー、そんな時間があれば実験だって進められるってのにってうわごめんなさいごめんなさい!!」
「…ロイドさん?」
ボヤキが入ったロイドに拳を握り締めるセシルという、ある意味いつもどおりの二人の姿にひどく気が抜けるが、という事は騎士の方には頻繁に会うことになるのだろうか。
背後で複数の咳払いが聞こえた。はっと顔を上げればそこに官僚たちの苦い視線が並んでいた。わたわたと四人そろって姿勢を正すと既にシャトルにタラップが据え付けられ、改めて表情を引き締めるのとシャトルの扉が開くのが同時だった。
ゆっくりと高度を下げる飛行機を見上げながら、ユーフェミアはそわそわと落ち着かない。彼女は前日からこんな様子で仕事もなかなか手につかず、終いにはコーネリアにすら呆れられていたほどだ。
一方のスザクもまた、結局あの翌朝、忙しいんだろうとばかりにクラブハウスから追い出されてまんじりとしない一日を過ごし、少々寝不足気味で頭の奥がぼんやりとしていたりする。
それでもわずかに残った理性をかき集め、早く駆け寄りたいとうずうずするユーフェミアを小さく諌めた。
「ユーフェミア様、あの、一応他の官僚たちの目もありますから…」
「わ、解っています! でも早く会いたいんだもの…」
彼女の無邪気さや奔放さを考えれば微笑ましい姿ではあるのだが、周囲の目はあまりよろしくはない。それは彼女に与えられた『お飾り』という評価のせいであり、今回やってくる補佐官のせいなのだが、何せ評価を受けるはずの本人がその補佐官を歓迎しているのだ。礼儀のなっていない者は鼻白んだ表情を隠そうともしない。
思い切り睨み付けてやりたいところだが、態度に出すと更にユーフェミアの評判を落としかねない為、それも出来ない。あぁイライラする、と内心で巨大なため息を落とした。
だがどうやらそれはちょっとだけ漏れたらしい。ふ、とついた息を聞きつけたか、ユーフェミアの眉尻が下がった。
「やっぱり私、だらしないかしら」
「え、あ、いえっ!」
「だって本当に久しぶりなんですもの…。同じ本国にいても、学生だった私と違ってルルーシュは本当に忙しくて、ここ二年ほどは殆ど顔を合わせていなかったの」
「本国に居られたのに、ですか」
「そうなの! 本国ではシュナイゼルお異母兄様のお手伝い、その合間にエリア21や23を行き来するのに精一杯で、騎士就任式も帰国の合間を縫ってお父様とシュナイゼルお異母兄様を立会いにしただけで殆ど表に顔を出さないで終わらせてしまったのよ?」
私も立ち会いたかったのに!と握り拳のユーフェミアの頭上を護衛機が五機、轟音を立てながら滑り抜け、別の滑走路に大型輸送機が二機着陸した。
更に皇族専用のシャトルが静かに着陸した。
愈々持って目を輝かせるユーフェミアと並んでシャトルを見上げる背後で小さく諌めるような声を聞きつけ、咄嗟にユーフェミアをかばい振り返る。
白衣とオレンジの軍服がそこに立っていた。
「ロイドさん、セシルさん!?」
「はぁい、特派でっす!」
「あら、お二人もお出迎えなのですか?」
ぎょっと目を剥いたスザクの背中からひょっこり顔を出し、ユーフェミアがのんきな声を上げた。穏やかな笑みにやはり笑みを返しながら、セシルが頷いた。
「そうなんです。昨夜シュナイゼル殿下から連絡がありまして、」
「ほらぁ、ルルーシュ殿下ってばシュナイゼル殿下の補佐官の一人でしょお? だから、僕達にもお出迎えしてくれないか~ってね~。更にさーらにぃ、ルルーシュ殿下の騎士のKMFのメンテも僕らにさせるんだってさ!! 僕らだって暇じゃないってのにねー? きちんと政庁の軍基地にスペース空けてもらってるんだからそっちに頼めばいいのにさー、そんな時間があれば実験だって進められるってのにってうわごめんなさいごめんなさい!!」
「…ロイドさん?」
ボヤキが入ったロイドに拳を握り締めるセシルという、ある意味いつもどおりの二人の姿にひどく気が抜けるが、という事は騎士の方には頻繁に会うことになるのだろうか。
背後で複数の咳払いが聞こえた。はっと顔を上げればそこに官僚たちの苦い視線が並んでいた。わたわたと四人そろって姿勢を正すと既にシャトルにタラップが据え付けられ、改めて表情を引き締めるのとシャトルの扉が開くのが同時だった。
2008-06-08 [Sun]
目的の人物は既に飛行場へ向かってしまっただろうか。
足早に、というよりも既に小走りに進む青年を、周囲の官僚が忌々しげに睨んだ。だが青年の方もそんなものに気を取られている場合ではないので完全に無視している。元々彼らはいい目で見られる事がないから、そんな視線も今更のものなのだ。
何より青年を走らせる原因は、こちらの予定も何も考えずに全てを押し付けてきた官僚達にこそあるのだから、逆恨みとしか言い様がないと胸中だけで嘆息する。
やがて見通す先、宰相閣下の執務室から礼を取って出てくる人影が目に入った。青年と同じ黒の軍服に剣と翼の意匠、柔らかく奔放に跳ねる鳶色の髪は彼を随分と幼く見せている。健康的に焼けた肌は彼がブリタニア人ではないと伝えていたが、青年にそれを忌避する感情は無い。軍服を飾る徽章と襟章、何より左胸に輝く銀の騎士章が彼の立場を青年や周囲の官僚どもよりも高くに押し上げている。そしてそれは彼自身がそれこそ血を吐くような努力をしたからこそ持ち得たものなのだ。
「准将!!」
背後から近付く足音に気づいたか、彼もまた足を止め静かに振り返った。
千歳緑の瞳がとがめるように細められたのを見て青年は騒々しく走った事を小さく謝罪すると、手に持ったファイルを此方に向けて差し出した。
「エリア11の最新状況です」
「ご苦労。―――落ち着いているようだな」
「はい、ユーフェミア皇女殿下の騎士就任式以来、主だったテロリスト達は沈黙を保っているようです。小規模の騒ぎはあれど、すぐ鎮圧されています。ただ、どうやら中華連邦の方に動きが見られるようですが」
「そちらはいい。国家間の問題に我等が関与する理由はない。我等が任務はルルーシュ殿下の御政務の補佐と御身の安寧を護る事、それのみ。我らの敵は『ルルーシュ殿下を狙うもの全て』だ。連中が殿下に刃を向けるならまだしも、エリア11の防備に我等が首を突っ込む必要は無い」
「はっ!! 准将はこのまま先行されるのですか?」
「いや、一度殿下に拝謁してから行く。私がいない間の御手引き役に手ほどきをせねばならないしな」
無表情だった彼の口角が僅かに上がったのを見て、青年も小さく噴出した。
殿下の御手引きは彼だけの役という訳では無かったが、重要な舞台では必ず彼がその役を務めていた。しかし今回託されるのは入隊したばかりの新人だ。身に余る栄誉による緊張と重責でがちがちになっていた様子を思えば、出発時間がずれ込むのは間違いない。随分と皆から『殿下の御身の安全が最優先だ』と言われていたようだから、きっと行き過ぎた警戒になる。とは言え、恐らく彼はそれを求めたからこそ、今回のこの指名となったのだろう。
笑いを漸う引き込めて、青年は受け取りなおしたファイルを小脇に改めて礼を取った。
「では、私はこれで失礼いたします。道中ご無事で、グランブリュ准将!」
「あぁ、後の事、殿下の事、しっかり頼む」
返礼してきびすを返す、その目は既に遠くに向けられていた。凛々しく、雄雄しいその後姿に青年は礼を崩さない。
彼の名はトゥーダ・K・V・グランブリュ。第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの専任騎士であり、枢木スザクに二年先んじて、史上初の騎士となった名誉ブリタニア人である。
2008-05-03 [Sat]
えらい勢いで視点が変わってすみません。
朝日に照らされながら、とぼとぼと歩く。
結局スザクはあの後強引にベッドに押し込まれてしまい、それ以上何も話す事が出来なかった。それどころか今朝起きた途端に「お前忙しいんじゃないのか」「無理してこちらに来たのなら早めに戻った方がいいだろう」とナナリーに会う事も侭ならないままクラブハウスから放り出され(「朝食にしろ」とサンドイッチの入った袋を渡された)、結果一人寮への道を歩く事になっている。
やはり怒っているのだろうか。KMFに乗っていた事を隠していた、それがどんな思いの上の行為であれ、嘘をついていたのだから。だがそれならばスザクが解らない筈が無い。ならば、スザクの混乱を慮ってなのだろうか。一気に色々な情報を与えられた事でパニックを起こしかけていたのは否めない。
もっときちんと時間を取って話をしなければと思う。やっと一歩、前に進めた自分の決意も聞いてもらいたいし、何より彼に、少しでも安心をしてもらいたかった。軍に戻ったら、一日でいいから休みを貰おう。
新たに決意をして、顔を上げたスザクはまだ混乱の中にあって、だからこそ気づく事が出来なかった。
あれほど頑なにスザクの帰還を望んだルーシウスが、「またな」といわなかった事に。
***
スザクを送り出し、その背中を僅かな間だけ見送ると、ルーシウスは迅速に動き出した。まず中等部と高等部それぞれに今日は休むと連絡を入れ、ナナリーに学校を休む事、そして大事な話がある旨を告げて朝食を進める。ルーシウスの声の硬さに気づいたナナリーが不安げに震えたが、これからもっと酷な事を言わなければならないルーシウスはその手を握ってやる事しか出来ない。
ひしと感じる緊張の為か、ナナリーの食は進まなかった。半分近く残したそれの片付けは沙世子に任せ、少しでも安らいでもらえないかと(無理である事は重々承知だが、愛しいナナリーを思えば何もせずにはいられなかった)ナナリーの好きな紅茶を入れて、ナナリーの部屋へ入った。沙世子には決して近付かぬようにと、釘だけはさして。
普段は穏やかで優しい気持ちに慣れる場所が、不穏な気配で満たされるのが悲しい。
「ナナリー」
呼べば、細い肩がびくりと跳ねる。きっとナナリーは、ルーシウスの声だけで大体の把握をしただろう。彼女はただ護られるだけの幼い少女ではない。七年の間、自分を殺しながら立ち続け、時に崩れそうになったルーシウスを小さな手で支えてきた強く賢い女性だ。とは言え、彼女が目を閉じ続けている――未だ世界に恐怖している事も事実で、更に今彼は彼女の住む優しい箱庭を壊す言葉を囁こうとしている。最も護りたい、護らなければならない少女にそれを告げるのは、ルーシウスの心をも痛めつけた。
それでも、このままではいられない。
傍に跪き手を握れば、思うよりも強い力で握り返される。
「ナナリー……ルルーシュがこっちにやって来る」
「!! ルルーシュ、お兄様が…?」
「スザクを騎士としたユーフェミアの補佐官として、明日、こちらに着くそうだ」
ルルーシュが一命を取りとめ、シュナイゼルの庇護下に入った事、その後シュナイゼルの片腕となるまでになった事は教えてあった。その事をナナリー自身も喜んではいた(「シュナイゼルお異母兄様に見てもらえるなら、もうルルーシュお兄様が危険な目に遭う事はありませんよね…?」)。
しかし、そのルルーシュが此方に来るとなれば話は違ってくる。
そっくりな双子の兄がエリア11に来て、もしメディアに顔が出たら。
同じ顔を、そして表向きにはルルーシュと名乗っているルーシウスに注目が行くのは当然の帰結であり、そこから自分達の事が判明しないとも限らない、否、絶対に見つかるだろう。アッシュフォードは全寮制とはいえ、そこに暮らす生徒達の情報を制限している訳ではない。名家の子息女が通うこともあり、中にはブリタニア人らしい野心溢れる者とているのだ。彼らがこんな情報を逃すとは思えない。
ナナリーとて遠く離れ続けた兄には逢いたがっていた。だが、兄に逢うという事は生存している事が知れるという事であり、皇宮へ連れ戻されるかもしれないという事だ。その先にある闇を、恐怖を、ナナリーの心は忘れていない。あの場所の事を考えるだけで身体が自然と震え、既に傷しか残らぬ足に痛みが蘇るようだ。
一息に血の気を無くしたナナリーを咄嗟に抱き締める。庇護者たる兄に抱かれながらも、小さな桜色の唇から漏れたのは絹を裂くような悲鳴だった。
「いや、いやああああああああ!! ぁっ、あ、ああああああああああ……」
「ナナリー、ナナリー落ち着いて、ナナリー」
「あぁあ…っ………お兄様…! お兄様っ、私……私酷い、醜いですっ! ルルーシュお兄様はずっと、七年も、たったお一人であの場所で頑張っていらして、なのに私…っ………私は、ルルーシュお兄様に会うのが怖い…会いたくない…!!」
「っ……俺も同じだよナナリー、俺もだ、あいつを忘れないと、心だけは傍にいると言っていながら、あいつの名を奪っていながら、俺もあいつに会うのが怖いと思っている……酷い、弟だ…」
悲痛に叫び泣きじゃくるナナリーに、ルーシウスもまた震える身体を抱き締めながら唇を噛み締めて嗚咽を堪える事しか出来ない。
ナナリーの心を苛む七年前の悪夢。そして、離れた兄に逢う事を恐怖する己への絶望。同じものを自らも抱くルーシウスには解る。心は傍にと彼の名を名乗りながら、いざ出会うかもしれないという事実に恐怖し、彼を避けたい、彼から逃げたいと思ってしまう自分の浅ましさ。醜さ。ルーシウスですら耐え難く身を焼くそれを、ナナリーも感じ、そして自分以上に絶望している。
だが、今はその悲嘆に身を浸している暇は無い。時間は刻一刻と過ぎているのだ。
だから、今は。
「……………キョウトを頼ろうと思っている」
「え、……」
「アッシュフォードはもう安全な場所ではなくなった。これからルルーシュの世話をしなければならない彼らに頼るのはこれ以上無理なんだ。…もしかしたらもう調査の手は入ってるかもしれない……お前を護りきれない」
「お兄様……でも………」
「アッシュフォードには本当に世話になったけれど……ミレイの見合いの話もある。これ以上隠蔽し続けるのは、無理だろうしな…」
どちらにせよタイムリミットは近かったのだ。それが僅かに早まっただけ。
戸惑うナナリーの額に口付け、頬を拭ってやりながら、心の中で苦く笑んだ。そう、全てはルーシウスがゼロとなり、クロヴィスを手に掛けた時から動いてしまっているのだ。坂道に置かれたボールが転がるように、それは当然の事。
「ルルーシュには悪いが、もう俺達はあそこへは戻れない。戻るには余りに遅すぎるんだ。生きている事を知られるのは仕方ない、でも戻る事だけは出来ない……解るね、ナナリー」
膝を突き、手を取り合って告げる。はらはらと涙を零しながらも、ナナリーは本当に小さくだが、確かに頷いた。彼女は自分達の置かれている状況、そして戻った時に自分達が置かれるだろう状況まできちんと理解している。それでもやはり、後ろめたさや心苦しさは解ける事は無い。
「……ルルーシュお兄様は…私達を恨めしく思われるでしょう、ね……」
生きていた事を隠し、更にまた彼から逃げようとする自分達を。
「…解ってくれるよ……きっと、ルルーシュなら解ってくれる…」
余りに白々しい言葉だと自分でも解っている。
それでも。
HN:
イタクラ
性別:
非公開
自己紹介:
ルル至上、ルル受。
お陰でそれ以外に対して厳しいことが多いですが、基本的に皆大好きです。スザルル萌ですが、黒騎士ロイドも好物だったりします。
捏造・パラレルネタ、エロよりもグロとか暴言が多いと思われますのでご注意を。
お陰でそれ以外に対して厳しいことが多いですが、基本的に皆大好きです。スザルル萌ですが、黒騎士ロイドも好物だったりします。
捏造・パラレルネタ、エロよりもグロとか暴言が多いと思われますのでご注意を。