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嘘つきパラドクス
「ルルーシュ・ランペルージは嘘吐きである」とルルーシュ・ランペルージは言った。さて嘘か真か?
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2008-06-29 [Sun]
小ネタ、似非現代ファンタジー(何)
気が向いたらこの設定であれこれ書くかもしれない。




 この部屋は怪しいし変なにおいがするよねとスザクがぼやき、彼の隣で薬を練っていたルルーシュはといえば、これまた何時もの如く無言でガーゼに練った薬を塗りつけると、患部に思い切り叩き付けた。
「いってぇ!!」
 悲鳴を上げて悶絶するスザクをきっぱりと無視したまま、更に指に取った薬を細かい傷にべたりべたりと塗り込める。濁音つきの呻き声もなんのその、蠢く体を押さえつける事もなく器用に包帯を巻き付けガーゼを貼り付け、あっという間に手当てを終えた。
 ぐったりと寝台に伏せる背中に、今度は一切の容赦もなく平手を落とし、サイドボードに水と細粒の薬を乗せた薬包紙を置く。
「これを飲んでさっさと寝ろ。藤堂さんにはこちらに泊まると伝えておく」
「……」
「…何だ」
 恨めしげな視線が見上げてくるが、いまさらそんなものに戸惑う事もない。腕を組み、真っ向から見下げてくるルルーシュにスザクの目がじりりと据わった。
「…足りない」
「薬の量がか?」
「ちがーうっ!! 優しさが足りないっていってるんだよ! 何あれさっきの!? 傷が深いとか痛むぞとか言ってた癖にやることなんであんな乱暴なの!? 幼馴染が怪我してるんだからもっと優しくしてくれてもいいじゃないか!!」
「ほう? 俺が優しくない、お前はそういうんだな?」
「そうだよ! そう言ってるじゃないか!! 結構血も流れちゃったしこれでも倒れそうなの我慢して来たんだから!」
「なるほど、それは大変だったな。大量に出血するのは生命にかかわることだもんな。…だがな」
 ぎゃんぎゃんと叫ぶスザクに柔らかい笑みを浮かべたルルーシュの右手がサイドボードに向けられた。光量を落としたライトの隣に置かれていた時計を繊細な指で摘みあげ、しっかりと握りなおし―――ごっと音を立てるほど乱暴にその鼻っ面に押し付けた。そのまま手加減無しにごりごりと顔面に押し付けられ、どうにかそれをどけようとするが、絶妙な力加減によって動く事が許されない。
 何より、見下ろすルルーシュの目がうっすらと酷薄な光を宿し始めたのを見てそれ以上暴れる事が出来ない。
「出血のせいでよく見えていないらしいお前に優しい俺が現在時刻を教えてやろう。午前三時二十八分五秒だ。午後じゃないぞ、午前だ。ちなみにお前が来たのは午前二時四十五分十二秒で俺は当然のことながらナナリーも就寝済みだった。それが突然玄関を蹴破られる轟音で目を覚ました上、優しい天使のようなナナリーはお前が無駄に騒ぐ声に怯えさせられたと言うのに心配で眠れませんと部屋で今も悶々と過ごしているだろうし、俺も俺で寝起きにあれこれ文句をつけられながら自分の睡眠を放棄して傷に合う薬を作り手当てをして痛みで眠れなくならないようにと痛み止めまで調合してやって更に寝床まで提供し、恐らく現場から直行でこっちに来て何の音沙汰もないお前を心配しているだろう家人に代理で連絡を入れてナナリーには大丈夫だったよと安心させてホットミルクを作ってやりお前には明日の朝は怪我にいい食事を作ってやらなければと献立まで考えている。さてそこまでやっても俺は優しくないとお前は叫ぶという事は、お前は俺に額づいてスザク様お労しや不肖このルルーシュが至らぬばかりにスザク様の痛みを取り除く事もならず本当に申し訳ないこの非は我が命をもって償わせていただきとうござると白刃で腹を掻っ捌く位の行動を取れと言いたい訳だな? いいだろう、この日の本の国関東一円を守護するお前の言葉だ、俺も潔く掻っ捌いて見せようじゃないか、ナナリーの事は頼んだぞスザク!!」
すみませんごめんなさい僕が悪かったです本当にごめんごめんったらルルーシュお願いだからそのナイフ下ろしてえええええええ!!!
 据わった視線と鞘から引き抜かれたナイフの鋭さに、傷の痛みも放り出してその腕に縋る以外スザクにできる事は無かった。


 どうにかナイフを鞘に収め直し、額に滲んだ冷や汗を拭いながら寝台に上り直す。
 実に無駄に体力を消費した気がすると呟けば、消費したんだとあっさり返事が返ってきた。
 取り合えず与えられた痛み止めを呷って水で流し込み、ごろりと仰向けに転がれば、思ったよりも穏やかな視線でルルーシュは隣に立った。
「全く、いつもの事ながら心臓に悪いよルルーシュ………」
「それはこっちの台詞だ。深夜に叩き起こされた上に玄関に血溜まりなんて作られて、ぱっと見ホラーな背景のせいでナナリーが真っ青になるし案の定お前なんぞを心配して随分と不安がっていたし。これでナナリーが寝不足になって明日の朝肌が荒れていたらお前の傷抉ってやるからな」
「……そこに僕の心配は入ってない訳だね…いや、解ってるけどさ…」
 この洒落にならない美貌を誇る友人は、極度のシスコンで妹に関わる事以外には殆ど興味を示さない割にその実結構なお人好しだ。こんな風に頼ってくる人間(しかも怪我人)を放り出す事が出来るほど冷たくはなれない。
 その証拠にぶつぶつと文句を言いながらも、スザクの身体にシーツをかぶせる手は優しいのだから、何とも素直でないというか不器用というか。
 思わずくすくすと笑い出したスザクに、柳眉を寄せてしかめ面になる。
「下らない事を考えてないでさっさと寝ろ。決して軽い傷じゃないんだ、熱も出始めてるだろう。幾らお前が人外な体力を持っているといっても、きちんと休まないと治るものも治らないぞ」
「うん。…………言い忘れてたけど、ありがとう、ルルーシュ」
「……あぁ。お休み、スザク」
 かちりとサイドボードのライトが消され、闇の中を小さな足音が遠ざかっていく。
 いつもの日常の終わりに、思ったよりも疲れていたらしいスザクの意識は直ぐに沈んでいった。
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