2008-05-19 [Mon]
姫るる。
「スザク。早く早く!!」
「お、待ちください、ユーフェミア様……っ!」
「もう、スザク早く!! お姉様達が着いてしまいます!!」
「わ、解ってます、解ってます、けど、引っ張らないで…!」
「スザクがトロトロしてるからですっ! エスカルゴじゃないんだから、フライパンで炒められちゃう前にさっさと動く!!」
「な、ちょ、殿下、何処でそんな、覚えたんですっ!?」
「秘密です! メイヤー夫人みたいな小姑発言聞きたくありません、ほら早く足を動かすっ!!」
「こじゅ…っ…だから殿下っ!!」
腕を引っ張り無邪気に微笑みながら走る花のような皇女と、彼女に引かれ泡を食ったようにおたおたと走る少年騎士。その姿はまるで子猫と子犬がじゃれあう様な微笑ましさがあった。
ブリタニア帝国第四皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアがナンバーズの少年を騎士にして、一年と半年で随分と当たり前になった光景に、侍女や従僕たちがくすくすと笑って二人を見送る。
人種や身分・立場を超えて仲のよい二人の姿は、主従となった当初こそ眉を顰められる事の方が多かったが、今となっては緊張ばかりが増える皇宮の中で変わらず甘く暖かな光景として受け入れられつつあった。それは『慈愛の聖女』『ブリタニアの良心』と名高いユーフェミアの気性のためでもあったし、穏やかで人の好い少年であるスザクと実際に触れての事でもあった。
そうして皇宮の中に(未だによい顔をしない者は多いものの)受け入れられた二人がこけつまろびつ走るその理由は、しかし今日に限って常とは少々違った。
―――エリアの制定に出ていた二人の姉が凱旋帰国する。
その一報が入ったのは朝食後、ユーフェミアが苦手な数学の勉強時間だ。
それを聞いた途端、ユーフェミアは教科書を放り出し、KMFの教練に出ていたスザクを強引に呼び戻して正装をさせ、さらに自分もお気に入りのドレスをあれこれ物色してキレイに着飾り、彼女の迎えに出ようと部屋を飛び出した。ちなみに当然ながらユーフェミアはドレスに合わせてヒールの少し高めな靴を履いている。それでスザクを引っ張って走っているのだから、彼女の騎士たるスザクとしては彼女が転ばないよう気を配ること必死である。
しかし従者の心主知らずというべきか、スザクの心など完全に無視してユーフェミアは走る。これだけ騒ぎながら走っているのだから、きっと後で礼儀作法を教えているメイヤー子爵婦人にお説教を食らうな、と油断なく周囲を見通しながらスザクは小さくため息をついた。
***
わたわたと謁見の間につながる控え室に走り込んだ二人に、先に着いていたらしいシュナイゼルが苦笑して見せた。その隣に並ぶクロヴィスもまた音を立てて走った事にか眉を寄せている。
「また騎士殿と一緒に追いかけっこかい、ユフィ?」
「ユフィ……またメイヤー子爵夫人に怒られるぞ?」
「ごめんなさい、シュナイゼルお兄様、クロヴィスお兄様。でも、だってスザクがあんまりもたもたしてるから……」
え、僕のせいなの、とばかりに視線だけ向けたものの、愛らしく頬を膨らませて睨まれ、更にクロヴィスにまで睨まれて反射的に首を竦める。苦労をかけるねと言わんばかりにいい笑顔のシュナイゼルは不敬を承知でスルーした。
「ところで、そういえば枢木君はルルーシュに会うのは初めてだったかな?」
「は、え、と、
「初めてのはずですわ! だってルルーシュがエリア18に行ってからもう二年なのですよ!? 結局そのままエリア19の制定に行ってしまって二年!! その間一回も帰ってこないんですもの、騎士就任式にだって祝電が届いただけ、お誕生日にだって手紙が一通!!」
シュナイゼルの問いに、スザクが答える前にユーフェミアが噛み付くように答えた。突然の大声に侍女たちが目を丸くしたものの、ヒートアップした彼女が止まる訳も無い。歯噛みする様子に、クロヴィスが首を傾げる。
「あれ、確か就任式の時は見事なブーケが来ていなかったかい? それに誕生日にだってシヴァーニのガラスペンとアナエの便箋セットも届いたんだろう?」
「ええ頂きましたとも、確かに嬉しかったけれどそれとこれとは話が別です、クロヴィスお兄様っ!! 私は飽くまでルルーシュに会いたかったのですっ!! だって折角の、私の記念すべき日なのに!!」
握り拳で語るユーフェミアに男一同は苦笑を洩らすことしか出来ない。
「お、待ちください、ユーフェミア様……っ!」
「もう、スザク早く!! お姉様達が着いてしまいます!!」
「わ、解ってます、解ってます、けど、引っ張らないで…!」
「スザクがトロトロしてるからですっ! エスカルゴじゃないんだから、フライパンで炒められちゃう前にさっさと動く!!」
「な、ちょ、殿下、何処でそんな、覚えたんですっ!?」
「秘密です! メイヤー夫人みたいな小姑発言聞きたくありません、ほら早く足を動かすっ!!」
「こじゅ…っ…だから殿下っ!!」
腕を引っ張り無邪気に微笑みながら走る花のような皇女と、彼女に引かれ泡を食ったようにおたおたと走る少年騎士。その姿はまるで子猫と子犬がじゃれあう様な微笑ましさがあった。
ブリタニア帝国第四皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアがナンバーズの少年を騎士にして、一年と半年で随分と当たり前になった光景に、侍女や従僕たちがくすくすと笑って二人を見送る。
人種や身分・立場を超えて仲のよい二人の姿は、主従となった当初こそ眉を顰められる事の方が多かったが、今となっては緊張ばかりが増える皇宮の中で変わらず甘く暖かな光景として受け入れられつつあった。それは『慈愛の聖女』『ブリタニアの良心』と名高いユーフェミアの気性のためでもあったし、穏やかで人の好い少年であるスザクと実際に触れての事でもあった。
そうして皇宮の中に(未だによい顔をしない者は多いものの)受け入れられた二人がこけつまろびつ走るその理由は、しかし今日に限って常とは少々違った。
―――エリアの制定に出ていた二人の姉が凱旋帰国する。
その一報が入ったのは朝食後、ユーフェミアが苦手な数学の勉強時間だ。
それを聞いた途端、ユーフェミアは教科書を放り出し、KMFの教練に出ていたスザクを強引に呼び戻して正装をさせ、さらに自分もお気に入りのドレスをあれこれ物色してキレイに着飾り、彼女の迎えに出ようと部屋を飛び出した。ちなみに当然ながらユーフェミアはドレスに合わせてヒールの少し高めな靴を履いている。それでスザクを引っ張って走っているのだから、彼女の騎士たるスザクとしては彼女が転ばないよう気を配ること必死である。
しかし従者の心主知らずというべきか、スザクの心など完全に無視してユーフェミアは走る。これだけ騒ぎながら走っているのだから、きっと後で礼儀作法を教えているメイヤー子爵婦人にお説教を食らうな、と油断なく周囲を見通しながらスザクは小さくため息をついた。
***
わたわたと謁見の間につながる控え室に走り込んだ二人に、先に着いていたらしいシュナイゼルが苦笑して見せた。その隣に並ぶクロヴィスもまた音を立てて走った事にか眉を寄せている。
「また騎士殿と一緒に追いかけっこかい、ユフィ?」
「ユフィ……またメイヤー子爵夫人に怒られるぞ?」
「ごめんなさい、シュナイゼルお兄様、クロヴィスお兄様。でも、だってスザクがあんまりもたもたしてるから……」
え、僕のせいなの、とばかりに視線だけ向けたものの、愛らしく頬を膨らませて睨まれ、更にクロヴィスにまで睨まれて反射的に首を竦める。苦労をかけるねと言わんばかりにいい笑顔のシュナイゼルは不敬を承知でスルーした。
「ところで、そういえば枢木君はルルーシュに会うのは初めてだったかな?」
「は、え、と、
「初めてのはずですわ! だってルルーシュがエリア18に行ってからもう二年なのですよ!? 結局そのままエリア19の制定に行ってしまって二年!! その間一回も帰ってこないんですもの、騎士就任式にだって祝電が届いただけ、お誕生日にだって手紙が一通!!」
シュナイゼルの問いに、スザクが答える前にユーフェミアが噛み付くように答えた。突然の大声に侍女たちが目を丸くしたものの、ヒートアップした彼女が止まる訳も無い。歯噛みする様子に、クロヴィスが首を傾げる。
「あれ、確か就任式の時は見事なブーケが来ていなかったかい? それに誕生日にだってシヴァーニのガラスペンとアナエの便箋セットも届いたんだろう?」
「ええ頂きましたとも、確かに嬉しかったけれどそれとこれとは話が別です、クロヴィスお兄様っ!! 私は飽くまでルルーシュに会いたかったのですっ!! だって折角の、私の記念すべき日なのに!!」
握り拳で語るユーフェミアに男一同は苦笑を洩らすことしか出来ない。
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