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嘘つきパラドクス
「ルルーシュ・ランペルージは嘘吐きである」とルルーシュ・ランペルージは言った。さて嘘か真か?
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2024-04-25 [Thu]
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2008-04-24 [Thu]









「ルルーシュ」



 アリエスの離宮へ戻る途中、背後からの声に足を止める。促されながら向き直り、右手を騎士に、左手で杖を支えにゆっくりと立礼したルルーシュを、シュナイゼルは柔らかな微笑で見つめた。
「調子はどうかな、仕事の方は上手く片付きそうかい?」
「僕で決済が可能な仕事は全て終わらせてあります。あとは、取り掛かっていた案件の引継ぎと、すり合わせで終わりです。予定通り、明日の午後一番の便で出発出来るかと」
「そうか…………いや、エリア11行きのせいで忙しくしているのは解っているが、やはりどうしても話がしたくてね。通達を与えてから二日間、全く話せなかっただろう?」
 だから一緒に部屋まで行ってもいいかな? 言いながら騎士に預けていた手を取られた為断わることは出来ない。元より断わる理由もないのだが。脇に退き、そっと背後に着いた騎士に小さく頷いて、ルルーシュは再び足を進める。立ち止まっている時間も勿体無かった。
 突然の上位皇族の出現に離宮の侍従たちは驚愕を見せたがそれも一瞬、すぐに帰還した主と共に迎えた。てきぱきとシュナイゼルを持て成す侍従たちを横目に、取り敢えず着替えだけは済ませて戻る。着替えで乱れた髪を騎士に整えられながらソファに腰掛けるとと、笑いが前から漏れた。羞恥に頬を染め、思わずずれてもいない眼鏡を直す振りで顔を隠したが、目の前の人物には通じる筈も無い。
「済まないね、急かしたようで」
「いえ、こちらこそ済みません。わざわざ閣下が」
「ルルーシュ」
「あ……異母兄上が時間を割いてくださったのに、暢気に着替えなど……」
「いいんだよ、本当なら君を休ませてやるべきなんだろうけれど、ね…」
 酷く申し訳なさそうに告げるシュナイゼルに、背後で騎士が頷いた気配を感じてしかめ面で振り返る。直ぐそ知らぬ顔をされはしたが、ぎゅっと眉を寄せると小さな声で「申し訳ありません」とだけ告げられた。それだけで首が飛ぶ不敬とされるだろう行為を、しかしシュナイゼルは苦笑する事だけで流す。
「じゃあ早速本題に入ろうか、君をいち早く休ませる為にも」
「申し訳ありません……」
「謝らなくていいよ。……今回は急な話で本当に申し訳ないと私も思っているのだよ。確かにユフィならこういう選択もするかもしれないと思っていたけれどね、その、まさかいきなりくるとは思わなくて」
「それは…十分に予測できたことですよ。まして今回はユーフェミアでん「ルルーシュ」…ユフィ自身がコーネリア異母姉上についていくと言い出した訳ですから、あの性格、主張から鑑みても確立としては低くて五割、高ければ八割」
「ある意味では自明の理だったという訳か。なるほど読みきれなかった私達――あるいはコーネリアの失態かな」
「普通ならそれも三割程度まで確立を落とせた筈なんですが……まさかここまで要素が重なるとは誰も思いませんからね」
「全く同感だ。しかし…まさかそれで君の元へ飛び火するとはね……」
 お互いに苦笑とため息を洩らし、紅茶を一口。
 水面から視線を上げると菫色の瞳とかち合い、思わず片眉を上げて笑う。
「仕方ないですよ。僕の騎士はナンバーズでありながらの選任騎士として……そして戦場でも名が知れています。皇妃方はどうかは知りませんが、少なくともオズワルド侯爵やマクニーニル伯爵は、純粋に教育係として僕に依頼をされていますから、決して悪感情だけで名指しされた訳ではありません」
「それは私も解っているよ。だが、ね……ノーマン侯爵を筆頭にしたあの派閥は、これを機にエリア21に干渉しようとしている」
「21での僕のやり方を気に入らないというのも理由ですか……それについてはもう根回しが済んでいるのでご安心ください、余計な手間は掛けさせません」
 にこりと笑うその顔は、若干十七歳で帝国宰相の補佐官として立つに相応しい覇気ある笑顔だ。
 だがすぐにそれもへにゃりと崩れる。
「とはいえ、思った事を正直に申しますと、今回の事は仕方ないと思います。あらゆる事象がこの事態を引き起こしてしまった訳で」
「そう、だねえ……特派の派遣もそうだし、黒の騎士団の出現、クロヴィスの死、デヴァイサーの素質、ランスロットの活躍」
「今回に限ってユフィが同行した事もそうです。更に彼女の癖が原因でうっかりと知り合ってしまった事、ユフィが彼を気に入った事、目に見えて解りやすいブリタニアの差別主義とそれに相反するユフィの理想、騎士としての条件を満たせる資質……」
「せめてそれぞれ単体だけならかわす事も出来た事がここまで重なると、もうどうしようもないね。これもあの子の成長の一環だと思って受け止める事にするよ…………ただ、」
 かちゃりとカップをソーサーに戻し、シュナイゼルは組んだ膝の上で頬杖をつく。薄く伏せられた菫色の瞳が僅かに鋭い光を宿した。
「それが私の片腕を捥ぐ事になるというなら、少々お仕置きも必要になるかな」
「……異母兄上……」
「安心をおし、私に出来る限りの手配はさせてもらう。だからルルーシュ、君は必ず戻っておいで―――例えエリア11を……ユフィを見殺しにする事になってもね」
 テーブル越しに伸ばされた手に頬を擽られ、慈悲に満ちた笑みで見つめられて、ルルーシュは柔らかな笑顔でそれに頷いた。
 それがルルーシュの選択だった。
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